アグリコラ・メダルとはラテン語で『農民』を意味する「AGRICOLA」を冠したメダルで、FAOが掲げる「全ての人のための食糧」目標に重要な貢献をした人物を称えるものとして、1978年から始まりました。
また、屈事務局長が就任以降、メダルの授与は今回が初となります。
屈事務局長は、エチオピアの農村および経済開発への貢献、特に「食糧自給のための小麦」プログラムへの個人的支援、またFAOの「緑の都市」イニシアティブに沿ったエチオピアの「緑の遺産」イニシアティブに対して、首相閣下にアグリコラ・メダルが授与されると説明しています。
小麦輸入国から輸出国への転換?
エチオピアに詳しい方の中には、今回の受賞を驚かれた方もいるでしょう。何故なら、エチオピアでは昨今、記録的な飢餓が続いたためです。
特に2020年にサバクトビバッタが大量発生して作物を食い荒らして以来、北部で内戦が発生したり、干ばつが襲う等、エチオピアでは多くの食料支援が必要となる状況が継続していました。
アビィ首相はメダル授与に際して過去5年間でエチオピアの農地が50%以上拡大され、特に小麦と米の生産量が増加し、同国が現在アフリカ最大の小麦輸出国であるとアピールしました。
また、2018年に就任した当時、エチオピアは内需を満たすために小麦を輸入していたが、現在は自給自足しており、2023年からは小麦を輸出していると説明しています。
アビィ首相の持つ『二面性』
アビィ首相が首相就任以降、エチオピアの農業発展に注力してきたことは事実です。その協力なリーダーシップでエチオピアの経済発展を実現し、アフリカでも指折りの経済大国となる道を邁進しています。
しかし、今回のFAOによる表彰についてはいくつか疑問符が付きます。
たとえば、先述したエチオピア北部のティグライ地域で紛争が勃発した後、アビィ首相は同地域で大規模な飢餓が発生しているにも関わらず、食糧支援を妨害したとされています。
その結果、紛争以外の要因が影響しつつも、同地域では飢餓により15万人から20万人が亡くなったとみられています。
そして、飢餓は現状でも継続しており、トルコ国営であるアナドル通信社によれば、確認されている範囲で昨月176人が飢餓により死亡しています。
そして、同地域を管轄する暫定政府は、人道危機の継続を理由に非常事態を宣言しました。
このように、FAOが農業発展の功績を理由にアビィ首相を称える一方、国内の飢餓問題を未だ解決できていない責任についても冷静に評価しなければなりません。
ふり返れば2019年、アビィ首相はエリトリアとの和平実現を理由に、ノーベル平和賞を受賞しました。しかし、その後北部で紛争が勃発し、さらに緊急援助の受け入れを拒んだ結果、人道支援に反しているとして多大な批判が集まりました。
これはアビィ首相だけに当てはまるものではなく、何かしらの受賞の裏側には多くの場合、政治的な利害関係が関係しています。
もしアビィ首相がアグリコラ・メダルにふさわしい人物であるならば、小麦の輸出をアピールする以前に、「全ての人のための食糧」を北部で飢餓に苦しむ人々へも、より配給に注力して然るべきといえるでしょう。
(イメージ画像はUnsplashより。© Vince Veras)
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