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執筆者の写真長谷川 将士

EUがグローバルゲートウェイ・フォーラム開催、中国の一対一路と差別化できるか

更新日:2023年11月4日

EU(欧州連合)は10月25日、中国の一対一路構想に対抗するため立ち上げた、グローバルゲートウェイ(以下、GG)構想の第一回フォーラムを開催した。


EUはGG構想の下、2027年までにアフリカやアジアのグローバルサウスとされる国々を中心に3000億ユーロ(約48兆円)を投資する計画だ。


一方、中国は一対一路構想の下、過去10年間で世界中のインフラプロジェクトを中心に約9,480億ドル(約142兆円)を投資してきた。


EU圏のグローバル・ゲートウェイ構想のパートナーは約60カ国であるのに対し、中国は150カ国以上と、金額面でもパートナー数でも、EUは中国に水をあけられている状況だ。


「より良い選択肢」の提供を強調


第一回GGフォーラムは、パートナーとの開発状況を把握し、モチベーションを高め、新たなプロジェクトに向けた協力や意見交換を強化する手段として開催された。開催には日本の岸田首相がビデオメッセージを送る等、日本政府としても注目している。


ブリュッセルで開催されたフォーラムの開幕式で、フォン・デア・ライエン委員長は、GG構想が各国に「より良い選択肢」を提供するものと発言し、EUの構想が中国よりも公平で官僚的でないことを示唆した。


中国の投資は主に鉄道や道路網の拡張、港湾の建設に使われており、中国からのコンテナ輸送を効率化するのに役立っている。


一方、EUの計画は、中国ほど輸送とインフラに重点を置かず、エネルギー、医療、教育といった分野におけるグリーンで持続可能なプロジェクトを促進することを掲げている。


各国で進行中のプロジェクト


GG構想における最初の大規模プロジェクトは2022年に始動した、ガーナ、ルワンダ、セネガル、南アフリカとのアフリカ大陸でワクチン製造ハブを建設することだった。


現在、約660億ユーロ(約10兆円)に相当する90個のグローバル・ゲートウェイ・プロジェクトが進捗中であり、フォーラムではさらに多くの案件が調印された。


バングラデシュのシェイク・ハシナ首相は、EUの資金提供を受けて同国で再生可能エネルギーを開発する協定に署名し、ベトナムのトラン・ホン・ハ副首相は、ベトナムのエネルギー産業のグリーンな変革に向けた約束を取り付けた。


EUはより多くの協定を通じて、アフリカやアジアにおける鉱物やレアアースへのアクセスを確保する狙いだ。


欧州の大手企業の資金力を結集


一対一路構想との差別化としては、GG構想が欧州の民間大手企業の資金力を結集し、動員していることが挙げられる。


フォン・デア・ライエン委員長はブリュッセルで、「公的資金、訓練、そして規制を可能にすることで、民間投資家が野心的なプロジェクトを開始するのに必要な長期的な予測可能性を提供することができる」と説明している。


欧州市場で席巻するドイツの機械エンジニアリング企業群は、GG構想を歓迎し、広く参加を望んでいるといわれる。


機械・装置製造業界最大のネットワーク組織であるドイツ機械工業連盟のウルリッヒ・アッカーマン代表取締役は、プロジェクトが迅速に実施されることが重要だと指摘する。


同取締役は「EUは、持続可能性の基準に基づく透明性のあるプロジェクト募集、投資収益率の事前算定、汚職防止措置といった原則を適用すべきである。国際的に認められた技術基準を適用すべきであり、これは批判されている中国の一帯一路構想の弱点に対抗するためだ」と述べた。


両方の構想に参加する国も


関係者は、グローバル・ゲートウェイは排他的なものではないと指摘している。目的は代わりとなる選択肢を提供し、中国からの自由を得ることだが、完全に切り離すことではない。GG構想に参加する国は、同時に中国の一帯一路構想に参加することができる。


実際に、バングラデシュやセルビアなど、両方の構想に参加している国は数多くある。


10月17日に北京で開催された一帯一路サミットで、中国の王毅外相は何らかの形で欧州のイニシアティブと協力することは考え得ると述べた。


王毅外相は、競争は肯定的な観点 から受け入れられなければならないと述べ、2つの計画を結びつけ、中国と西側諸国双方の利点を発揮することに意欲を示した。


受け手が利益を享受できる構想となれるか?


ブリュッセルに拠点を置くNGOである、債務と開発のための欧州ネットワーク(Eurodad)のジャン・サルダーニャ取締役は、GG構想は人権やグッドガバナンスなどの基準を十分に重視していないと指摘する。


同取締役は「最終的に行き着くところは、ヨーロッパは中国と競争しようとしているということであり、それ以上のものではない」と述べ、自らの勢力争いのために資金を導入するという点で、現在は一対一路構想との違いを見つけることが難しいと述べた。


現状としては、投資される分野や投資主体では違いが見られるものの、自らの利益を拡大し、主義を広めるために大規模投資を実行するという点では、中国とEUとの差異を見分けることは困難だ。


受け手となるグローバルサウス諸国においては、中国がこれまで提供してきたインフラや輸送分野以外の開発を補完するものとして、主にグリーン分野や医療・教育分野の開発を促進できる可能性はある。


しかし、受け手となる各国の財布はそれぞれ一つしかなく、開発分野の優先度を考慮したとき、どこまでGG構想が受け手に取って好ましいかは未だ不透明である。


またコロナ禍以降、各国の債務負担が増大している中、新たな借り入れ余地がどこまであるかについて、厳しい査定と検討が迫られる。


ただでさえ中国と比較して基準が厳しい融資査定を行うEUとしては、GG構想が掲げる理念と現実との間に解決しなければならない問題点があることに対峙せざるを得ないだろう。




(画像はフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長のX投稿より。©Ursula von der Leyen


<参考記事>


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