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執筆者の写真長谷川 将士

気候変動対策としての天然ガス活用と公平性の難題

ドバイで開催された国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)では、既存の排出削減誓約をすべて実施したとしても、地球温暖化を1.5度未満に抑えるという目標が実現不可能であることが示されました。


この目標を達成するために、化石燃料からの脱却が盛り込まれた共同宣言が合意されました。


これは高所得国にとっては移行を早めることになりますが、過去10年間に再生可能エネルギーへの投資をほとんど受けてこなかったアフリカ諸国では、エネルギーへアクセスできない状況が大きく拡大する可能性が高まります。


今回は米国のシンクタンクである戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies, CSIS)が12月11日に公開した記事に基づきつつ、アフリカにおける天然ガスの利用可能性と公平性という難題についてご紹介します。


拡大するアフリカでのエネルギーへのアクセス不足


日本に住む私たちの身の回りには様々なエネルギーが利用されています。自動車にガソリンを入れたり、天然ガスでお風呂を沸かしたり、電気を用いてテレビを見たり、いわゆる文化的な生活を営むにあたってエネルギーへアクセスし、利用することが欠かせません。


しかし、アフリカ地域ではすでにエネルギー危機に直面しており、6億人がエネルギーを利用できない状況です。


人口の増加、サプライチェーンの寸断、コロナ禍の大流行による経済的影響により、2021年には2019年に比べて、電気を利用できない人々が4%増加しました。


エネルギーへのアクセス不足によって、社会の発展や経済成長を進める努力が台無しになり、人々は、貧困から脱出する可能性が低くなります。また、学術研究によって、エネルギーが利用できなければ教育就学率、健康、平均余命に悪影響を及ぼすことが明らかになっています。


人口急増に伴い、アフリカではエネルギー需要が電化率をはるかに上回っています。


アフリカ大陸の人口14億人は、2050年までに25億人近くに達し、世界で最も人口の多い8カ国のうち5カ国がアフリカ諸国になると推計されています。


また、2050年時にナイジェリアは米国を抜いて世界第3位の大国になりますが、同国はすでに絶対量において、世界一のエネルギー貧困国です。


国際エネルギー機関が指摘する、天然ガス活用の必要性


国際エネルギー機関(The International Energy Agency, IEA)のモデリングによれば、再生可能エネルギーと天然ガスの両方をミックスしなければ、アフリカで普遍的なエネルギー・アクセスを達成することは不可能であるとしています。


アフリカ大陸における再生可能エネルギーへの投資は十分とはいえません。世界の再生可能エネルギーへの投資は2010年から2019年の間に3兆ドルを超えた一方、アフリカは2010年から2020年の間にその2.4%に過ぎません。


このため、天然ガスが不足分のエネルギーを充足する上で重要な役割を担っています。


22年5月のキガリ声明(Kigali Communique)は、アフリカにおける公正かつ公平なエネルギー転換とはどのようなものかを明確にするためアフリカ10カ国のグループによって作成されました。


この声明で掲げた7つの原則の一つは、再生可能エネルギーに取って代わられるまでの移行燃料として、アフリカへのガスの普及を支援することす。


COP28の合意では歴史上初めて化石燃料からの脱却が盛り込まれたことが話題を集めましたが、日本の報道ではエネルギー利用における公平性の問題にはあまり焦点が当てられていません。


将来の天然ガス投資を断ち切ることは、世界の二酸化炭素排出量のわずか3%しか寄与していないアフリカで、多くの人々がエネルギーへのアクセスを実現するルートが失われることになります。


アフリカに眠る豊富な天然ガス


戦略国際問題研究所のグレースリン・バスカラン調査ディレクターは、アフリカで普遍的なエネルギー・アクセスを実現するためには、最も排出量の少ないルートを見つけることが重要であるとしてます。


天然ガスは、燃焼時に石炭の半分の二酸化炭素を排出します。2010年から2019年の間に、石炭からガスへの転換によって、世界全体でおよそ5億トンの二酸化炭素排出が回避されました。


アフリカ大陸には、2010年から2020年の間に世界で発見される天然ガスの40%が埋蔵されており、世界の天然ガス埋蔵量の13%が南アフリカにあります。


このように大量の天然ガスが確認されていますが、まだ開発は承認されていません。国際エネルギー機関の試算では、2030年まで年間900億立方メートルの追加生産が可能で、その3分の2は国内消費に、残りは輸出に使われる推計です。


重要なのは今後30年間にこれらのガス資源を使用した場合の累積炭素排出量が、およそ10ギガトンに達するということです。これを現在のアフリカ大陸の累積排出量と足し合わせると、世界の排出量に占めるアフリカの割合は3.5%にしかなりません。


エネルギー利用と炭素排出量の観点から、バスカラン氏は、「2050年までにアフリカが世界人口の25%以上を占めるようになることを考えると、不釣り合いな低さである」と公平性について指摘しています。


産業革命以来、化石燃料を活用して経済を成長させ、文化的な社会を享受するということは多くの国で実践されてきました。


温暖化の進行を阻止するために世界が一つにまとまって対策することが喫緊に求められている状況がありつつも、これまでは問題が無かった化石燃料の活用を妨げられ、発展の道が阻害されることは公平かという難題は、国際社会とアフリカ諸国、どちらに解決を求めるべきものでしょうか。



(イメージ画像はPixabayより。©PublicDomainPictures


本記事は戦略国際問題研究所の記事である、「天然ガスはアフリカにエネルギー正義と気候変動対策の進歩をもたらすことができる(Natural Gas Can Deliver Energy Justice and Climate Progress in Africa)」に基づき作成しました。


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